ダイエットがしたいです


 以前は春夏秋冬いずれかにしか食せなかった野菜や果物も、 今やオールシーズンで店頭に並んでいる。瑞々しく色も鮮やかな袋詰めの それらを手にとってよく吟味し、プラスチックのグリーンカラーなカゴに放りこんだ。 特売といえど品質は大事だ。
 腰痛持ちの爺さんなのでカートとはスーパーのお友達になる。 一人暮らしなんですし余りそうなんですけどね、私だけならまず間違いなく 余るんですけどね、いえ数々の冷凍保存テクを駆使してそんな勿体ないことしませんが、 あの人もしかして「これが俺のMOTTAINAI精神なんだぞ!」とか思ってるんでしょうか。 誰のせいで小分けじゃなく袋詰め買ってるとか、言っちゃったら負けって 分かってるんですよ。でもそこで諦めたら試合終了なんですよ!
「ああ、安西先生…たぷたぷしたいです…」




「――すみません。あまり…と言いますか実に楽しくありません」
「突然なんだい君は」
 帰宅したらテンプレの「にほーん!あーそーぼー!」すら無くなって、 薄型テレビの前でゲームをしているアメリカさんがいた。おかえり、に 貴方の家じゃありませんと返すのも麻痺している。それよりたぷたぷ、 と顎下に目をやったが残念ながらピチピチのイケメンフェイスには そんな癒し要素はなかった。いいんです、ダイエットに付き合わされている身ですが、 あなたのパーカーの下がたぷたぷなのはお見通しです。そこで散らばってる メガマックの紙片が証拠です。
 いざ!とパーカーの上から、お腹のあたりに手を突っ込んで先述にいたる。

 そして後悔しているのが今だ。
 肉のつく場所で天地が分かれるなんて。ステータスとはいえお嬢さん方の苦心に深く感じ入った。 埋め込んだ手が温かい。どころか、人は熱と同時に体温調節で汗も放出して いるので弾力と生温さが大層生々しい。

たぷたぷ
「………」
たぷたぷたぷ
「………」
たぷたぷたぷたぷ
「……鎖国したい」
「Noooo!!!!スイス化は止めてくれよ日本!!」
「だってこんな、ジメッとしてるたぷたぷ癒されません! がっかりです!ドイツさんのムキムキは遠いですしちょぉおっと威圧感がありますし、 せめて安西先生で充電するくらいいいじゃないですか!!」
「なんだ、二次元かい」
 ホッとした溜め息をもらすアメリカさん。私には死活問題ですこのKYが。
くぅん、と控えめな鳴き声が聞こえたので目線を下ろす。 ぽち君が正座した太ももの上にたふ、と肉球を置いてじっと見詰めていた。 これです!これですよ!感動した私はぽち君をぎゅっと抱きしめ、 台所に置き去りにしてきた食料品を片付けるべく立ち上がり、立ち上がろうとして アメリカさんに阻止された。癒されない。 圧死しそうな力でぎゅうぎゅう羽交い締めにされて癒されるわけがない。

「夕食、作れませんよ」
「充電してるんだぞ!」
「私まだ買った物しまってません。アイス溶けちゃいますよ」
「隣の佐藤さんが火曜は野菜がお得だって。アイスは日曜。君、曜日ごとにまとめ買いしてるだろ」
なんてこった、バ レ て る。こんな所ばかりしっかり見ててこの若者は、
「聞きたくないですが…充電って」
「それは秘密さ!でもヒーローにはヒロインがいないとね!」
「何かはわかりませんが、付き合わされるの確定ですか」
「違うよ、ちょっとしんどいけど俺んとこにもあったと思ってさ。アメリカ式!」


(何かはわかりませんが、嫌な予感しかしません…)





日というよりパラレル世界な本田。
この後ハリウッドでビリー隊長な減量でエイプリルの鮫のような泳ぎを見せるいい体な米…て夢見すぎですか。 ですね。充電はムキムキのために気力充電、て説明するの恥ずかしくなってきたよ!