3設定の弱ってる真田主従
某日某所、見合いの席にて(※オリキャラ注意)



































.
3設定の弱ってる真田主従


「佐助、さすけ」
 声変わりをした頃は何年も昔なのに、やけに幼さを感じてしまうのは懇願を含ん でいるからだろうか。飛び付いて佐助に抱きついてきた、あの頃が懐かしい。
「さすけ、さすけ、頼む。返事をしてくれ。なれば、戻れる」
 ぎゅうぎゅうとしがみつく幸村の力が増した。苦しさも増すが、佐助が口にする ことはない。言葉にしない代わりに佐助もそっと抱き返す。

 幸村が時折、発作を起こすように佐助に抱きつくようになったのは、ここ最近の 事だ。肩か胸に頬を寄せて、心臓の音を確かめるように聴いている。元々、忍の 鍛練で心拍数が極端にゆっくりな佐助も、この時は呼吸法を変えて常人と変わら ぬ速さに調節していた。変えなくても、この長年仕えた主は気にしないだろうが、 佐助なりの優しさでも、自侭でもあった。
 髪を背へ流れるように鋤いて、宥めるように動かす。甘やかすのも今だけだと思 うと、鈍ってしまいそうになる動きに口元が歪んだ。こんなことをしている場合 じゃない。

「さすけ、お館様の御容態は」
もう終わりの時間。

 佐助は軽く息を吐くと、ポンと幸村の背中を叩く。
「大丈夫。安定してるよ」
 不安そうな幸村に安心づけるよう強い調子で話すと、ホッとしたようで佐助から 身体を離した。温かみが消えて少し物悲しい。が、誤魔化すのも慣れた。普段の 幸村なら気付くかもしれないが、気付かないままでいてほしい。
「さー仕事仕事!甘えるなよ大将。やる事は山程ある」
 物言いたげな幸村に気付かない振りをしている、佐助のように。


佐助の声が聞きたい旦那と 自分はいつ死ぬか分からないから執着させたくない、
でも自分自身は執着してる佐助


back
















.
某日某所、見合いの席にて


 あれは六か十か、何度か遠い親戚の家に行くことがありました。田舎だけれど電 車も通っていて、駅から10分かそこらで着く、子供の足にはほどよい家でした。
それは飽きやすく落ち着かない子供を楽しませて、普段見慣れない別世界へ私を 誘ってくれる場所だったのです。
 親戚の家は古いものですから、全体的に薄暗くて抹香の香りが家中に染み付い ていました。暫くは縁側から庭を眺めてみたり、本を読んだりしてみるのですが次 第につまらなくなって、雨がしとしと降る日などは来るんじゃなかった、とすら思いも したものです。これでは言っている事が違うじゃないかとなりますね。
 私の中で、親戚の家はいつもミンミンと蝉が鳴き、植物は青々と繁り、じっとりと 汗ばむ心証なのです。それは親戚の家へ向かう途中、必ず通る大きな屋敷が心 を占めているからなのでしょう。子供にはほんとうに不思議が詰まった場所だっ たのです。

 私は周りから空想好きと言われていたから、退屈な時はよくお屋敷を覗きに行っ ていました。歩いてほんの数分、米屋がある石垣の、白い壁の反対側にお屋敷は ありました。親戚宅よりもずっとずっと古くて、木で出来た門は真っ黒、お屋敷 と言ったけれどぐるりと取り囲む背の高い木塀も黒くて、町の中でそこだけ異様 な光景でした。
 格子状の門の向こうは無造作に好き勝手に生えた木々や花が夏の盛りを満喫して いて、とても剪定をして手をいれているようには見えません。飛び石すら雑草で 覆い尽くされてしまいそうでしたもの、ですがどの植物も生き生きとしておりました。
それと立派な柱には【猛犬注意】の紙が貼っておりまして、きやんきやん、みいみい、 様々な動物の鳴き声が度々聞こえることも。昔は野犬も多かったですから、こんな 紙を貼るのだからさぞ凶暴な犬がいるのだろうと戦々恐々としていました。
 けれども好奇心には勝てません。おそるおそる覗いて見るものの、犬どころか猫の 姿すら見ることはありませんでした。辛うじて鬱蒼としたツツジの間からこじんまりと した家社が見え、お狐様がいらっしゃるから姿を見せないのかだとか、面白半分で 多種多様な動物の声を真似ているのかも、などと子供らしい物語を膨らせていたものです。

 お屋敷は人の気配がなくて、ですけれどもいきものの気配がとても濃い、摩訶不 思議な所でした。男の子たちなら冒険と呼び鈴を鳴らしたかもしれません。 そこまでの勇気もない私は格子の先を見詰めるばかりです。



 短い滞在の繰り返し、飽きもせず眺めておりますと、急に格子ががらりと動いて 私は肝が飛び出てしまうかと思いました。まさか人が居るなんて思いもしなくて、 幽霊屋敷だと思っていた頃でしたから、お恥ずかしながら腰を抜かしてしまって。 家人の方はお困りになったでしょうね。吃驚した顔で手を引いて起こしてくれました。
年の頃は三十中頃でしょうか。笑うと大変お若く見える方で、えんじ色の着流し を着ている様は大店の若旦那といった風でした。お詫びにと屋敷でお茶を頂きま したが、私は勝手に覗いていたのがばれて恥ずかしいやら、申し訳ないやら。
 御家の方は家人が出掛けていて、菓子を切らして出掛けるところだったようです。 すまなそうにするのですが、私は益々小さくなってしまいました。

「それにしても遅い。全く、普段は主らしくだなんだと言うのに」
「旦那さまはお菓子、すきなんですか?」

 おやと思い訊くと、顔を染められるものですから何だか嬉しくなりました。
 男性が甘いものなんて、私の周りはそんな方が多かったから仲間を見つけた気分にな ったのです。そして、親戚の家におはぎがあったのも思い出しました。親戚や母 が沢山食べきれないくらい作っていたから、少し貰っても大丈夫だろうと名案を 思い付いたのです。「少しだけ待ってて下さい!」と叫んで中も黒が目立つ―― 畳の青さと相まって涼しげな内屋敷を音が立たないよう走って外へ飛び出ました。
 お屋敷の主人が慌てて制止の声をあげていましたけれども、私はこの子供みた いな大人におはぎを食べてもらいたくて、耳に入りませんでした。
 母等の作るおはぎはお店にも負けない!と信じていたのと、やはり負い目があったからです。

 外から見る分には無造作で雑木林のような庭は、私を避けるように門へと導きま す。思えば案内された時も草花が道を示すよう開けた気がしますが、どちらにせ よ頭がいっぱいだったので詳しくはわかりません。走って走って、おはぎをいく つかこっそりと拝借し(秘密にした方が良いと思ったのでしょう)お屋敷に向かい ました。



 でもね、門がびくともしなかった。
 あんなに軽やかに開けていた格子門が、石のようでした。
不思議に思って、呼び鈴を鳴らしたけれど誰も出てこなくて、私はただただ悲し くて情けなくて泣いてしまいました。夏の盛り、おはぎだってこのままでは腐っ てしまうでしょう。誰か気付いてくれると良いのですが、そんなものいらないと 言われたようで踞っていました。

 お皿に置いた2つの黒いお菓子は結局門の隅に置くことも出来ず、道端の道祖神 にお供えして帰りました。家族や親戚は減ったおはぎと泣き腫らした私の様子に 首を傾げ、事情を話しますと蜃気楼か狐に化かされたかと笑いました。
 お屋敷の正体は米屋の大きな蔵と管理の為に作った小屋があるだけで、私が見た立派な日 本家屋もありはしないそうです。昔は酒蔵だった時もありますが、今は全然だと。
 勿論、甘党の若旦那などいませんでした。動物の鳴き声は近所のものが聞こえ たんだろう(親戚の家にも鶏がおりました)、たまに米屋の主人があの中で犬を走 らせているから。
 私は呆然としてしまって、夢から現実に引き戻された気持ちでした。嘘じゃない と言っても私自身化かされたんじゃないかと思う気持ちがあって、塞ぎこんだま まその日は寝てしまいました。



 落ち込んだままの私を気の毒に思ったのか、次の日、両親が手を引いて祭りに連 れていってくれました。提灯の光が美しくゆらゆらと揺れていたのを覚えていま す。ですが私は屋台に顔を向けるでもなく、境内の石畳を眺めていました。あの お屋敷は、いえ、蔵はいつもと同じぼうぼうの草が生えた格子柄の蔵でした。お 供えしたおはぎも動物でも取っていったのでしょう。空の皿を持ってとぼとぼと 帰りました。
「お面があるよ。いらない?」
「いらない」
 美味しそうな匂い、金魚すくい、魅力的なそれらは私には届いていません。父と 繋いだ手から、困った響きが感じられました。母は林檎飴を握らせ、ゆっくりと 歩きます。

「祭りは嫌い?」
「好きです。でも、」
(もうあのお人に逢えるわけではないもの)

 背の高い人の壁が私のまわりを通りすぎます。篠笛がひゅいららと聞こえてきま す。ぎゅうと父の手を握ると、苦笑したようで笑い声が聞こえました。
「困ったね、俺様の上司は揃いも揃って人使いが荒いったら」
「え…」
 父じゃない、若い声に顔を上げると狐面の男の人がいました。人間違いに慌てて パッと手を放そうとしますと、優しく握り返されます。指差した先は社務所でした。
「真田の旦那はオシゴトだから、俺で悪いけど」
「さなだのだんな?」
「甘党のおっさん」
 ああ今日あたりからまた若くなってっかも、被害甚大だから動かないで欲しいよ…
 若旦那の代理人さんは何やら呟いておりましたが、それは下向いていた私の心を 舞い上がらせました。

「どうかこれをお渡し下さい!」

 手にした林檎飴を向けて、真剣な表情をしていたのか笑われてしまいます。顔が 赤くなるのがわかって、私はまた俯いてしまったのですが、受け取ってくれたよ うでした。
「あ…ありがとう」
「こっちこそ。はい、お守り」
「羽根?」
 綺麗な紅い羽根でありました。手のひらよりも大きいので、余程の巨鳥です。あ りがとうと言おうとし、しかし狐の代理人さんは居なくなって、かわりに焦りき った両親が駆けてきました。




 これがそのお守りなのですけど…あの出来事は、子供の夢幻だったのでしょうか。 あれ以来、お屋敷は動物達の鳴き声がする事もなく、誰かが出てくる事もあり ませんでした。取り壊され、今度新しい建物が建つのだそうです。
 ふふ、物語にするには稚拙過ぎるお話でしょう?話すのも貴方が初めてなのです。 不思議でございますね。


「驚いた。どうか、私の話を聞いてはくれませんか?」
私の守りは青龍の鱗なのですよ。


旦那と佐助は朱雀だと狐、虎だと狼のイメージがあります。
筆頭は洗脳で龍以外浮かばないね!蛟だとか言われちゃう筆頭もおいしいね!


back