教育講座


※高校生編途中です
※はれんちではないですがエロ本でしりあすかっこわらいです








「でさぁ、おかん青ざめて次の日から米一升炊いてて」
「おいおい、夜中に必死でマヨ吸ってる息子見たら俺でもそうするね。悪霊退散どーまんせーまんー」
「ハラヘって限界だったんだっつの!運動部は油が動力源なんだ、覚えとけエロ悪霊」
「ばっか、エロこそ青少年の動力源だろうが」

 …なんて言ってた奴等もいたなあ、と佐助は在りし日の学生時代を振り返った。
 クラスメイトの他愛もない雑談がたまたま耳に入っただけの話だ。 エロ悪霊と言われた奴のエロ本は、女子にバレないよう男子で共有したものだ。 あれはレベルが高い逸品揃いだった。
 うんうんと頷きながら佐助がやっている事と言えば、 高校生の預かり子の部屋で掃除機をかけ、見つけてしまったピンクな本を 前に置いての正座である。この情報が氾濫し性にも緩い現代で、 男女が公衆の面前で手を繋ぐなど破廉恥な!と顔を真っ赤にする男子高校生。 絶滅したと言われて久しい大和撫子以上の稀少種である。
 争い事が苦手な草食系男子でもなく、むしろ中学から剣道部に所属し 全国大会でも常連の内実共に男らしい青少年だ。打ち合いの真剣な顔は親代わりの欲目なしでも 精悍で、色気があった。女性は苦手そうだが、それなりに上手くいっているならいい。 遊ばれてそうだというのが佐助の予想だ。
 古風な口調もあって、育ててきた佐助がいうのも何だが、戦国時代から タイムトラベルでもしてきたような子供。
 それが遂に…と思うと、今どき律儀にベッド下から出てきたエロ本にすら 感慨を覚えるものだ。こんなに無垢でいいのかと心配していたのだ。 反面、成長に泣きたい複雑な気持ちも大いに、視界が歪んだりしているが喜ぶところだ。
 今日は休みだし赤飯にしようと思う。ケーキも買ってくるか。
 飄々と受け止めているようで、佐助は真剣かつ深刻に混乱していた。

 彼の兄である信幸は知ったらどんな反応をするだろうか。 弟を溺愛している信幸のことだ、爽やかに朗らかに佐助を殺しかねない。 社会的にか即物的にか考えたくもないが、やるときはやる男だ。 殺るじゃないのを期待したいが、真田には不惜身命の血潮が流れているんだと言った時の信幸の目。
俺終わった、佐助の頭にはそれだけがガンガンと鳴り響いた。



 あれはいつだったか、仕事が忙しくどうにか抜け出せたのは昼と合間の僅かな時間、 全部を使って佐助は彼の弟君の運動会へと向かった。 信幸も二人の上司の信玄も予定が重なり、佐助が何とか学年競技を見れるかどうか、な年だった。
 勿論最前列でビデオ撮ったりシャッター連打したりなど出来ない。 運動会とは保護者の場合、熾烈な場所取りと親バカにて繰り広げられる裏の戦合戦である。 入念な情報確認、ベストショットへの策、陣地、兵糧、友軍との協力…欠ける事は許されない真剣勝負だ。
そして佐助は記録媒体を手にする暇すらなかった。器用で手段を選ばない佐助でも、 けして万能ではない瞬間だった。

「私は私の意志で、父上の想いを引き継ぎたい。私では役不足な箇所もあるだろう」
しかし佐助、

 結果、弟のメモリアルの為にこの世から抹消されそうになったのは、 トラウマ以外何物でもない。小学何年の事だったかもぼんやりしている。 リレー形式の競技で粉塵を上げまくる子供の、赤い鉢巻きを巻いた勇姿はしっかり覚えている。


 そんなブラコンが純真無垢な箱入り弟に二次性徴が訪れたと知ったら、 共に暮らす佐助ですら驚く初心な少年なのだ。成長に喜ぶかもしれない。 第一、男なのだから来ない方がおかしい。
 だが佐助に八つ当たりが来ないかといえば、それはないのである。
 佐助が感じるように、自我に伴う自立に喜ぶ気持ちと、 そのままでいて欲しい気持ちは平行線だ。メーターで増減出来るものじゃない。 同時に訪れるが、人によって感じる強さは違う。強さが強いほど葛藤は付きまとう。 そうやって葛藤と折り合いをつけて経験を積んで生きていくのを、信幸も佐助も知っていた。
 やりきれない気持ちを理解できるくらいに、佐助も家族とも友人ともを 越える同居人を大切に思っている。血の繋がりがなくとも幸村という子供は 佐助の核になった。その事実だけが佐助にあればよかった。