こばなし陸

春の破局話(慶幸と佐助)
オンラインゲーで真田主従
わんわん物語(完全わんこな佐助と飼い主幸村)




































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春の破局話


「……昼寝日和なのになぁ」
 屋上の柵に凭れかかって携帯の画面を眺め続けて一時間。
 パステルに近いコバルトブルーの青空と、眼下に見える満開の桜が 感傷的にさせるやら陳腐っぽいやら。春は出会いと別れの季節。 俺にも別れが来た。自然消滅に近かった。
 どっちがどっちって訳じゃなかったけど段々麻痺する事が多くなって、 久しぶりに来たメールは別れの予兆しかない文字の羅列。 気まずい雰囲気の中告げられたのは予想通りの通告。
 せめて俺から言うべきだった。男らしく、またきれいでもあった 彼にそれを言わせるのは、後の祭りだとしても罪悪感が伴った。 きっぱりと最後まで相手の目を見る潔さや清廉さに、 どうして恋のままでいられなかったのだろうと思った。
 登録番号を消すのは一瞬だ。最後のワンプッシュで綺麗さっぱり、 フォルダ分けしてたメールや彼専用の着メロもちょっとの操作で削除される。 でも、それだけの動作に俺は屋上で携帯と眺めっこしてて、 ついでに指も動こうとしなかった。ずっと同じ体勢なもんだから体が緊張を訴えてきている。

と、後ろから指の長い手が伸びてきて、俺の携帯をするりと抜き取っていく。
「自業自得って、知ってる?」
 落ち着いた声は俺に見えるよう、背後から手をまわして 携帯を固定したままデータを消去した。俺が一時間眺めて唸って 押せなかったボタンを、ほんの軽い動作でやってのけてしまうのを見ると、 簡単すぎて拍子ぬけするようだった。
 そのまま携帯を空中ダイブさせるので、俺は慌てて手を伸ばしてキャッチする。 間一髪ていうか、躊躇ってもんがない携帯バンジー(命綱なし)に さっきから止まらない背中の冷や汗が更に流れ落ちた。
「佐助、ここ屋上」
「あんたを突き落さなかっただけ感謝してくれ」
 恐る恐る振り返った先には、濃いオレンジの髪を持つ同級生が緩く 腕組みして突っ立っていた。うららかな春の桜色した空気にまったくそぐわない、 真冬のオーラしか感じられない。来るのは確信していたけど、 気を抜いたら次には息がないんじゃないか。そんな寒々しさだった。
「わかっただろ。前田の旦那。真田の旦那はあんたが理解出来るような人じゃない。  竜の旦那だって半分がいいとこだ」
 普段の笑顔はどこへやら、ごっそり表情の抜け落ちた佐助はそれでもどこか泣きそうな顔だった。
別れを告げた幸村と同じ顔。俺は彼らに似た表情さえ作れないことに気付いた。


恋でいられなくなったけいゆき
多分筆頭とだったらこんなあっさりいかない。 旦那は一途で不器用な人だと思うので、引き際を察するとサクッと。 自分より相手を優先しそうです

佐助と幸村でこういう、恋愛の終わりはないのは幸か不幸かわからないけど
あの二人の関係を恋や愛では括れない理由のひとつではないかなあと思っています


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オンラインゲーで真田主従


 ネット通信で協力プレイが売りのゲームを押しつけられた。
 よくCMもやってるし、大手だから宣伝も凄かったゲーム…らしい。
ツテでもらったんだがなぁ、と「良かったからお前もやってみろよ」 なんて胸元に押しつけられたものの、生憎俺自身はそんなにやらない方だし 正直興味はあんまりなかった。バイトも講義もなくて暇じゃなければ すぐ突っ返していただろう。そういえば、きっかけってそんなものだ。

 早速始めてみるものの、周りには俺と同じような初心者がうろうろしていて、 さて自由度が高いゲームらしいがまず何をしようかとそこから迷ってしまった。
 説明書を横目で見つつ適当にうろうろして、適当に装備を整えて街の外に出た。 整えるといっても薬草が買えるかどうかだが、備えあればというし 序盤はスライムがお約束だ。まさか初戦から一撃で終わるなんて誰が思うだろうか。
「…攻撃する間もなく死ぬって……」
 あっけなく倒れ伏すキャラクター。素早さ重視でも勝てないとなると他のタイプでも無理だろう。 防御力なんて度外視のダメージだった。
だって9999とか出てたし、どこが良いんだと思ったのが本音だ。
「やりなおしかぁ。めんどくさいね…ん?」
 死んでたはずのキャラが生き返ってて、こういう仕様なのかと思ったが 違うみたいだ。キャラの傍に赤を基調にした別のキャラクターが立っている。 凶悪な敵もいなくなっていた。

yuki:運が悪かったでござるな。発生率は低いのだが、凶暴な敵だ。
sasuke:ありがとう。始めたばっかりで…助かったよ。
yuki:心無い不届き者もいるから気をつけるに越したことはない。それでは御免。

 武士みたいな口調に若干引いたが、親切な人に違いない。 敵も恐らく倒してくれたのだろう。近くに置いていた馬に乗って颯爽と去って しまったが、ゲームの中でとはいえ本物の白馬ならぬ鹿毛馬の王子様ってやつに 遭遇するとは…男で申し訳ない気すらしてくる。
「…ってことがあってさ、まあ女の人みたいなHNだったから女性だろうけど」
『そ、そうか…』
「旦那みたいな口調の人が他にもいるってのは面白かったよ」
『ああ!おおお俺も会ってみたいものだ、な…!』
「旦那?俺さ、もしかして」
『っすまぬ!父上に呼ばれておるので失礼する!!』

「あー…切れちゃった。つくづく隠し事に向いてないねあの人…」
気付かないわけがないだろう。だって彼の格好は自分とおなじく、
「昔の格好そのまんまじゃない」



信幸(ゲーム会社営業)→幸村、家康→元親→佐助ルート。
旦那が触れて欲しくなかったのは何度もハード壊しかけて、独り立ち出来るまで 兄上がずっと側にいたからです。 モンハンしかやったことないし知識もないので深くは考えないでね!


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わんわん物語


 よくよく犬だと言われる自分だが、飼っている犬を見るとさて どうだろうと思ってしまう。その犬は自分よりも余程気が付くし、 芸も何度か繰り返せば覚えてしまう。例文ひとつも覚えられない英字の 課題を前にすると、尚更。
 散歩にリードはつけているけど、つい寄り道しそうになると逆に引っ張ってくる。 虫歯になったばかりだろう、呆れたようにウォンと鳴かれるとどっちが飼い主かわからない。

 さすけと名付けたこの犬は珍しい血が流れているらしく、 狼の血が混じっているとかいないとか。夢のある話だ。 純血や稀少性が必ずしも良いとは限らず、さすけもその部類だった。
 心無い人間はどこにでもいるもので劣悪な環境の中むやみやたらと 交配させた犬は先天性に障害を持ったり死期が早まってしまう。 その業者はマメシバが人気だと知り、違法を重ね高く売りつけようと していたのだろう。保護された犬は痩せこけているか、とても小さかったそうだ。 極端に餌を減らし成長させない方法もあると聞いた。 身勝手なのは重々承知でもさすけが生まれてすぐに摘発されてよかったと思った。
 巡り巡って我が家にやってきたさすけは子犬でも警戒心が強くて、 なかなか心を開かない。トラウマだろうと兄は言った。無理はない。 昔飼っていたとはいえ、扱いがよくわからないと父や兄と家や図書館、ネットから 犬の資料を集めてきたけど、最終的にはそれに落ち着いた。

 根気よく根気よく接して、ようやく背中を数秒撫でられるようになった頃、 夕方にいけず深夜の散歩に出た時。鮮明な風景はそれだけ強烈だった証でもある。 茜より吹き出した血に近い月の色、じっとりした空気、絡みつくような重苦しい日だった。
 短縮しようと帰り道は灯りの少ない道を使ったのがいけなかった。 黒い固まりにしか見えない角から、異質に光るものが飛び出してきたからだ。 一瞬反応が遅れてしまった。ヒュンというよりひうんと変な音を出した刃物は 髪にかすっていった。急所は免れても重傷は免れなかっただろう。
飛びかかったさすけがいなければ。
 はっとした次にはもうさすけは刃物を持った腕に噛みついていて、 聞いたこともない唸り声を上げていた。泣き声か痛みか意味不明に叫ぶ男から 離れたナイフらしき刃物を蹴飛ばして足払いをかけると、恐怖からか男はあっさりと失神した。

 さすけ、と呼ぶとそれまでまさに、狼のように食らいついていた犬が 静かに腕から口を離す。跪いて抱きしめてもさすけは厭がりもしない、 動きもしない。馬鹿みたいにさすけ、さすけと首筋に顔を埋めて繰り返した。
 さすけは警戒心が強くともあんな風に怒らない。思い当たった事はきっと当たっている。
 さすけが震えていたかどうかは知れない。自分は視界がさすけの毛でちくちくしたりと、 情けなくぼろぼろと泣いていたから、震えていたのなら人間の方だ。
 警察に連絡しないといけない。家にも。解っていたが動けなかった。 さすけは鳴きもせず、ただ温かかった。



 結果から言えば、予想通り不届き者は捕まった元業者だった。 仮釈放で出てきた男は一番高価に売れるはずだったさすけを奪って、 売れるならよし、そうでなければ前回と似た事をするつもりだったらしい。 傷害未遂も加わって再度戻るだけになった。
 さすけも軽い掠り傷程度で、父や兄は苦笑していた。 又五郎はもう少し上手くやったぞと父は懐かしそうに言うが、 あの落ち着いた犬がと思うと意外だ。大きく屈強そうだった又五郎と違い、 さすけは昔の環境のせいか小柄な印象がある。

 あの事件以来さすけはなつくようになったものの、友人から面倒みられてると まで言われると確かに、とも思う。友人も相当だと言ったらデコピンされた。
 俺ん家の小十郎は優秀だからいーんだよ。
 よくないでござる、人間的に。だが、気持ちはわからなくもない。 彼等は恩人で、友人で、家族だから、自慢したくなるのは当たり前だろう。


さすけはツンからデレになっただけなので、 恨み〈〈〈〈旦那なだけです。
モデルわんこは天然記念物のわんこ。柴犬かわいいよ柴犬


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