こばなし伍〜やりたいほうだい〜

崖の上の以下略パロ(※お気をつけ下さい)
押し花(幸村と慶次と)



































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崖の上の以下略パロ


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ソ/ウ/ス/ケ→さすけ
ポ/ニ/ョ→ゆきむら
リ/サ→まさむね
おとうさん→こじゅうろう
ポ/ニ/ョのおかあさん→おやかたさま
フ/ジ/モ/ト→けいじ

キャスティングミスにもほどがあるのは重々承知です。
17さいとかそのぐらいで設定クラッシュ ほんのり小政かもです。
さすがにばさらで人面魚はあれなので、人になるまでは本物の魚で。
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 低地の港町は常々海に悩まされる宿命にある。床上浸水ならまだかわいいもので、 十年か二十年に一度は山の上のホテルに避難する羽目になるのだ。海の恩恵に あずかっている住民も慣れたもので、漁に出ているものは嵐の中を沖に出てやり過ごし、 家にいるものは避難袋を手に消防や警察の指示に従って、荒れ狂う海から身を守る。
佐助の家は崖の上にあって、漁師たちの灯台がわりになるような家だった。
 船長をやっている父はなかなか家には帰ってこなくて、ベランダに備え付けられた ライトでチカチカとモールス信号の会話を交わすのが、この家の父との 会話みたいなものだ。佐助が幼い頃は、よくふてくされた親代わりに代わって 信号を送っていた。視覚で訴える痴話げんかは、他の者からみたらのろけにしか 見えないだろう。あの強面な父(本当の父ではない)が≪いつまでもおそばに≫ なんてチカチカやってるのだから、夜の海の魔力はすごいものだ。 結局は右目に眼帯をつけた母(?)もまんざらではなさそうなのだから、 こんなものなんだろうと佐助は思っていた。流石に思春期をむかえると、 止めてくれと思わないでもなかったが。

 家の三方を海に囲まれて中々にデンジャラスな気分を味わえる家の良いところは、 いつでも海釣りが出来る、これに尽きる。後は満天の星が眺められること、 夜景がそこそこきれいなこと――だが、健全な青少年な佐助にはロマンティックな 光景を眺めるよりも、釣りをする方が楽しかった。
 母親(??)の政宗に、カギ針のついてない竿で何釣ってんだとつまらなさそうに 投げかけられることもあるが、ゴミを釣るよりかはマシだ。少なくとも佐助にとっては。 太公望ごっこだろうが何だろうが、時間を潰せればまあいいかな心境で、 庭の裏手にある小さな小さな浜辺に降りていく。
田舎の夏休みはやることが少なすぎた。

「右目の旦那のお手伝いもねえ…行ってもいいけど、竜の旦那、料理しかしないし」

灯台守でさえ好きにすればいいと言う両親だ。佐助が小さい頃は船長になるなどと 夢をもったりもしたが、進路がじりじりと迫ってくるいまになって、何がしたいのか と言われればどうしようかという有様だった。
 コンクリートのざらざらとした質感を踏み越えて、猫の額より狭い浜に辿りつく。 潮の香りが強くなった。
「他の家事すんのは俺だし――」
 昔ながらの麦わら帽を被ってテトラポットに腰を下ろしかけた時に、海には珍しい 赤いものが視界の隅に映った。金目鯛、は煮付けが旨いなと糸を垂らしかけて、 音が鳴るほど勢いよく振り返った。なんか、ありえないものが、

「…海で、金魚」

瓶入り…レターボトルでもなく瓶入りの金魚…

 透明なガラスに収まっているそれを恐るおそる手にとってみると、やたらとでかい金魚だった。 生きているのか死んでいるのかわからなかったが、瓶が小ぶりで窮屈そうに見えた佐助は、 手頃な石を選んで瓶に殴りつける。意外とあっけなく砕けた瓶は、だが、佐助の 親指を傷つけて血がじわりと浮き上がってくる。
「ってぇー…それにしても、金魚って淡水魚じゃなかったか?」
 両手で掬い上げた赤い魚は、縁日で見る金魚よりも大きい。新種か珍種かと まじまじと見つけていると、ふいに魚の顔が佐助の親指に当たったかに見えた。 傷のついた親指だ。慌てて片手を離して見てみると、傷はきれいさっぱり、 元通りになっていた。
「…………イリュージョン?」
ていうか生きてんの?生きてんのこれ?
 佐助の頭が許容量を超えてきだしたので、ともかくは生きているなら水の中に 突っ込もうと日常の判断に任せることにした。海水はキケンかもしれないので、二、三 段跳びで崖の階段を駆け上がって、庭に設置されている水道口にバケツを置く。 魚が釣れるはずがないのだから、バケツには何も入らないが、佐助は形から 入るタイプだったので釣り竿と一緒にバケツも持って行っていた。

「あ、生きてた」

バケツの中で悠々と泳ぐ金魚にほっと安堵するのは、もう少し後。


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「なあなあ、幸村ぁー機嫌直しなよ。そりゃさあ、外に出てって恋するって 俺としては大歓迎だよ。応援しちゃうよ。あんただから尚更さ。けど配役に従わねぇと まつ姉ちゃんの松竹梅スペシャルが」
「慶次殿。恋ではござらん」
「なんとかしてやりてぇけどごめんな…俺さあ、この役向いてないよ。 けど人間と人魚の人ならぬ恋!そこに恋の試練とあっちゃあ、これはこれで燃えるって もんだね!」
「慶次殿。佐助はそれがしの命の恩人であって…」
「――それでも、あんたに人間の世界は辛すぎるよ。生きてはいけない。
はい、これ食べて」
「…団子が食べたいでござる」
「ええええええっ!ゆ、ゆき、団子食べたの!?体大丈夫?あー、 おれも旅した…いや、なんでもない…」

「人間になれば、佐助にまた会えるだろうか」

「わー!!!!足!足生えてる!落ち着けってゆきむらー!!!」
「我が父親役ながら煩い奴よ」
「佐助(保護者)がいねーんだ…ほっといてやろうぜ」


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 政宗の運転テクは過剰なドリフトと異常な速度に見て見ぬふりをすれば、かなりのものだ。 ただし、助手席に乗って波が高く吹き付けるなかでやられると生きた心地はしない。 今年は大荒れの年だったようで、波はガードレールを軽々と飛び越える有様だった。 この調子では電気も危ない。実際、停電している家もあるようだ。家で大人しく してりゃよかったと佐助はがたごと揺れる車内で心底思う。
「余裕だな。Stop!っつってるのを無視って来たんだ。へばるなよMy son?」
「アンタのそーゆーとこ、おれ好きになれないわー」
 非常用具の買い出しをよりにもよって、こんな時にしなくてもいいはずだ。 家には佐助が買い直して、小十郎が点検している分が十分にあるのだから。  政宗は好き好んで荒れた天気のなかを出たがる傾向がある。荷物持ちに付き合わされた 佐助はいい迷惑だ。灯台守ならやっているから、抑止役の小十郎と共に海に 出ていてもらった方がまだ安全ではないだろうか。
「気象庁よか俺の勘が正確だってわかっただろうが。たまたまだ、たまたま」
 わかってて買い物に行くのはどうなのか。口に出そうか出すまいかな文句は、 大きく揺れた振動で呑み込んでしまった。すっきりしないまま、ふと後ろを見てみると、 高波が佐助たちを丸のみするように迫っている。呑まれたらアウトだと 経験則から判じていると、

「うっそ」
「アァ?鵜飼いにでもなる気になったか」
「魚の上を、男が走ってる……」
「聞かなかったことにしてやるから、帰ったら寝ろ」

 佐助だって信じ難かったが、魚の大群にしか見えない波の上を、飛び跳ねながら 男が走っている。そこそこスピードの出ているこの車に追い付くスピードだ。 真夏の怪談におあつらえ、なのだが、男はあまりにも楽しそうに笑っていて、 恐怖体験にしてはちぐはぐだった。白昼夢の方がよほどしっくりくる。 ここ数日、夢としか思えない出来事ばかりだ。いつ覚めるのだろうか。
ふと男がこちらと目が合って、笑ってみせた――瞬間に、波間に消えてしまった。 本当に怪談だ。海外映画ならこれからが真骨頂なので、戸じまりは厳重にしようと、 佐助は車にしがみつくことに集中した。


***

 なんとか帰り着いた家で、車のドアを開けると、車線に男が突っ立っていた。 僅かに覚えたデジャヴに口を開閉させた佐助が、我に返ってしたことは津波で 危険だと声を上げることだ。一軒しかない家の傍、しかも先は行き止まりな道に 立つ、男に近寄る役目は政宗が行った。赤のTシャツに白の丈の短めなチノパン姿の男は、 佐助と同じか、下くらいの背格好をしている。
「この辺じゃ見ねえな、どこから……」
「佐助!」
「おれ?え、うわっ」
「佐助、佐助!」
飛びつかれて倒れこみそうになった俺を見て、政宗が、
「女か?」
と愉しげに訊いてきたが、俺は夢が覚めないことが不思議で、だから戸惑いもなく、

「さなだのだんな?」

と柔らかくもない体を成り行き上、抱きしめながら訊いていた。
ニッと笑って肯定した幸村の髪からは、潮の香りがした。


ポ/ニ/ョ/パロというのもおこがましい気がします。だが悔いはないんだすまない
不安な佐助の手を引いて「母上どのを、探そう」とか眠たげな旦那に言ってもらいたいです
晩御飯食べながら寝てもらいたいです。オプションに佐助によりかかってくれたら私はしあわせです


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押し花


 慶次は毎日毎日、独眼竜の言葉で言うと、はあとまあくを飛ばしている夫婦を見て、 幸せだなあと思う。二人の世界は慶次が空気になってしまうのも度々らしく、 沢庵や醤油を取ってもらえないこともあった。だが甲斐甲斐しく飯をよそう姿と、 旨そうにどんぶり飯をかっくらう姿は温かだった。それだけで、いいかとなってしまう。
 しかしたまに空虚に満ちた何とも言えない、隙間を感じてしまう時は、 ふらりと足が赴くに任せた。慶次はその、襖の間から流れ出るすきま風のように、 ひんやりとするものの名を知らないほど子供ではなかった。笑って曖昧にしてしまえる大人だった。
それを逃げだと語る男もいれば、理解できまいと遠い場所へ行ってしまった男もいた。
 慶次は恋を語りながらも、恋を見詰めようとはしない。 自由である慶次はまた、酷く不自由でもあった。それでも慶次は街行く皆が、 この日ノ本の誰もが、叔父夫婦のあんな笑顔を浮かべられるといいと思った。 恋は人を幸せにしてくれる。その手段を、甘やかさを、誰もが感じてくれればと




…思ったのに。

「それがしには必要ありませぬ」

 こう、一刀両断されるのも何度目なのか。ひのふよ、と数えかけて止めた。 慶次が恋を口にする度に聞いている決まり文句だ。回数は山程、たくさん。 両手じゃ足りない。稲穂の数を数えていた方がまだましだ。
 破廉恥ッと鼓膜どころか脳みそに響く叫び声、は 諦めの強いあしらい口調になっていった。眉間に軽くしわを寄せて、 またか、と顔にありありと出ている。居心地悪そうな表情だったが、 隣に腰かけても何も言わないので、嫌われてはいないんだろう。
 城下町から少し外れた茶屋には紅葉が一本、店に添うように生えていた。 赤ん坊の手のひらの形をした葉がいくつか根元に落ちている。
「最初は真っ赤になってたのになぁ。そこの紅葉みたいに」
 面白かったけど、からかいすぎたかと横を伺ってみればびっくりした顔をしていて、 慶次もあれ?となった。はらはらと時折落ちてくる赤い葉は趣がある。 朱の布を敷いた長椅子の上に落ちると、混ざって溶けてしまいそうだ。
その椅子に腰かけた赤い兄さんは、戦装束を着ていないからか今日は赤くなかったが。
「幸村?ゆきむらー?…ゆきちゃーん?」
 覗き込んでも手を振ってみても、置物みたく目を真ん丸にして固まっている。 何の置物かって、この兄さんちの三の丸にあるたぬきの信楽焼…なんだけど…
叩くといい音がしますぞ。あと珍妙なことに、金銭が飛び出たでござるって笑顔で言ってたやつだ。 貯金箱だったんじゃないの?それ。誰とかは言わないけどさ。

 置物みたくこんこんと叩いてみようかと考え始めたところで、 呟きみたいな頷き声が聞こえた。惚けたままだったからか、張りはなかった。
「驚いたでござる…」
「俺もすっげえ驚いたって。鳩が豆でも喰らった顔しちゃって、どうしたんだい」
「慶次殿は」
 幸村は膝元に落ちてた紅葉を一枚取ると、 茎の部分を持って色付いた枯れ葉をじっと注視して、それから慶次に訊いてきた。
「この色、どう感じ取られるか」
「どう…って、綺麗?」
 慶次がありのままを口にすると、幸村はふ、と息を吐いた。 それがあんまりにも愛おしむ目をしていたから、今度は慶次が惚けてしまう。 歳に似合わない、初めて晒す色だったのもある。あの熱血純情兄さんがねえ、 と思ったのもある。息が詰まって、言葉を出してしまってもいいのかもわからなかった。
「左様に」
 さあ、と風が吹いて幸村の髪をふわりと揺らした。散っていた紅葉が浮き上がる。 慶次の髪も揺れて、前髪から見え隠れする光景は絵画を眺めてるみたいだと思った。

「慶次殿。あの色はそれがしのものではありませぬ」



 その後のことを、正直慶次はよく覚えていない。
店主の老人がどうなすったね、と心配そうに声をかけるまで、そのままだったかもしれない。
はっとした時には幸村は消えていて、訊いてみると
「いつものお迎えさんが来なすったから、帰られたよ」
と皺だらけの顔面を更にくちゃくちゃにして笑っていた。 慶次は立ち上がって勘定を済ませると、紅葉の木の側に寄っていく。 落葉を一枚、手に取ると店主にかざしてくるくると回す。 長椅子に舞っていた葉は全て吹き飛んでいた。
「お迎えって、こんな奴?」
腰の曲がった証人の答えは簡潔だった。
「ありがとなじいちゃん。うーっすら耳の赤い紅葉、見た気がするんだ」
 笑顔で返しながらも、慶次は思った。あれは恋ではない。直感だ。
なら、あの紅葉の映える青年はどんな生き物なのだろうか。
途中まで手に持っていた赤銅の葉は、いつの間にか消えていた。


 何ヵ月かのち、季節が変わる頃に訪れた幸村の寝室には季節外れな、 和紙で挟まれた紅葉の掛け軸が飾ってあったので、慶次はまたここを訪れることになるのだろう。


なくなるもの、なくならないもの
恋はひとりでするもの、愛は相手がいて成り立つもの


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