人外×2+人の野郎三人でお出掛け


「まさかあんたが車運転してるのを見れる日が来るなんて」
「適応って言ってくんない?社会適応」

 本気で驚いたらしい慶次は、運転し始めて随分経つというのに「はぁ〜」だの、 「へえ〜」だの、しきりにハンドルや、メーターパネルと横を流れる景色とを交互に見比べている。
どうやら忍鳥を使い、空を滑空していた頃とのジェネレーションギャップと戦っているらしい。 が、人工衛星や電波やに24時間不眠不休で見張られている現代で、凧に乗って移動なんてやったら、 奇人変人として扱われるか(ハングライダーと言うには苦しいだろう、あれは)、 下手に騒がれるだけだという結論にはいつ辿り着くのか。
 元々佐助は忍らしくない髪の色と存在感だが、そう目立つを良しとしていない。
目立ちすぎず、さりとてそこそこに怪しまれない程度に。それをやってのけるのが、 猿飛佐助の器用さだと言えた。それを言えば幸村は、不の言葉ですら破壊し尽くす不器用で、 彼の全力・熱血突撃はここにも大いに力を発揮していると見える。 あくまで佐助は幸村の傍にあるを自然としていたし、来る者拒まず、去る者追わずな 倦怠漂う無常感がそうさせているのかもしれない。 慶次は二人どちらとのタイプとも違ったが、知り合って間もない三人旅にしては 車内の空気は良かった。(と、慶次は思っている)

 後部座席から幸村の座る座席のレストヘッドに両腕を組んで頭を乗せ、 嬉々として前に乗り出してくる慶次に二人とも何も言わない。  軽自動車ではなかったが、男三人、しかも慶次はガタイがよかった。 半透明だろうが体格はよかった。元々二人だけで使う予定以外なかった所為か、狭い。 物質じゃなくて、気分的に。と内心佐助が思っていようが、乗り込んでから幸村が 「前田殿の頭半分が、天井を挟んで真っ二つになっておるな」と後部座席を見て呟き、 「じゃあ外観から見たら頭半分飛び出て…」
「………」
「……………」
「………前田の旦那、屋根の上に座るのと半透明なんちゃってパトランプ、どっちがいい」
佐助が半ば真剣に聞いたぐらいのもので終わっていた。
 霊的存在だから殆どの人は見えないし、見えてもギャグか怪談だろうと突っ込む人はいない。 人間、日常がこうだと思ってしまうと気付かないものも多いのである。


「でもさ、電車とかバスとか使うと思ってたよ」
 いつの間にか風景は山深い、緑濃い光景になっていた。 田んぼと畦道と、あるのはガードレールの白色と崖崩れ防止の防壁が延々と。
「遠いときはそうするけどね、出来るだけ人の眼につくようなことはしたくないのよ」
 眼鏡をかけた佐助は、横で早々と眠りの世界に落ちた主を見て溜息をつく。 陽光と平和な微風に誘われたのか、寝顔は気持ちよさそうで、 ドアガラスから吹き込んでくる風に時折り髪がそよそよとなびいている。
 後ろを振り返らず、指で後部座席を指した佐助の動きを辿ると、 座席には二振りの刀が厳重に巻かれて置かれていた。
「旦那の得物持ってこれたらいいんだけど、名工物を分解するわけにもいかねーし。
 かと言って依り代もある程度の力ないと問題外。苦労してんの、俺様も」
 幸村の槍は何せ身長を越えるほどの長槍、しかも×2。外に持ち出しなどすれば即座に 注目を浴び、銃刀法違反の疑いをかけられる代物だった。
 以前など、「Japanese traditional!」と『萌え』の墨字も荒々しいプリントTシャツを着て、 両手に紙袋装備な外国人観光客に叫ばれたときは、これからは力を使うのを許してもらおうと 本気で佐助は思った。本能に従い、幸村の両目を神速の速さで覆った佐助は、 コスプレだのイベントだのという聞こえてくる言葉をこれまた本能的にシャットダウンする ことにした。
 観光客には何の罪もないが、日本は変化の速い国である。 速すぎてついていけないこともやはり、あったのだ。





佐助はミッション車がいいと無駄な主張をかまします。&眼鏡。