かぐや


 冷えた空気に相応しい月夜であった。星の瞬く数の多いこと、 ぽっかりと浮かぶ月の玲瓏さは紫黒の雲にも負けはしない。 されど女であれば情感に浸り、さめざめとわが身を憂うもできように、 九度山に居を構える幸村に浮かぶのは吉兆の占(うら)だけである。
 占星術の手ほどきを幸村にしたのは直江兼続だったが、 その兼続とも義の勝利を願い各地に散った以来会っていない。 気まぐれに現れた豪放な金色の傾き者は、兼続がどんな状態なのかは言わなかった。 幸村も問わなかった。彼の優秀な草は、ずっと前に答えを届けているから意味がなかった。
 つまりは関ヶ原で敗し、西軍に加担した罪で蟄居させられている幸村が いくら占おうと、戦場に立てるわけでもないのだ。 くのいちが「幸村様らしい」と言うが、嘆きというよりも無味乾燥な思考が働くのだから、 幸村自身としては苦笑するしかない。
 手を伸ばしても届かず、追いかけても距離は縮まらず、 だがいつも存在を示す月は日輪よりも幸村に近しいものだった。 昇った赤い日は夕焼けと共に落ちてしまった。きらめいた星は流れ落ちてしまった。
 しかし軍師というものは厄介だ、と幸村は思った。くのいちが楽しそうに、 どこか悲しげな顔をしながらももたらした情報どおり、 大坂の城から使者がやってくるのは数日後のようだった。
 そして奥州王からのたわいもない密書が届くのは更にその後数日を要するが、 その頃には幸村は大坂への道中を歩むことになる。



 天下の謀反人と豪語するだけあって、政宗の行動は周囲を はらはらさせることが多く、反感も買いやすい。 家康がなぜそんな政宗を許しているのか疑問視する声も多い。 だが政宗にとっては狸と化かしあう狐は力不足であっただけだ。
 集団においては自分のような『憎まれ役』を作っておき、 協調性を高めるに越したことはない。江戸の普請を行うにせよ、 開幕できる征夷大将軍になったにせよ、莫大な金がかかる。 自分へ目を向けておけば不平不満を抑え大名の力を落とすのにも一石二鳥、 金山を抱える奥州はまだしも、他大名には痛いことだろう。
「儂は死人と話すつもりはないぞ」
「別に兼続と話してくれって言ってるわけじゃあねえ。ただな、上杉にも招集命令が来てる。  殿様は出るって言ってるが」
「当然じゃ。今逆らえば儂でなくとも嬉々として潰しにかかるわ」
「政宗さんよ、アンタぁ…お守としても近くにいるんだろ?」
 むっと眉根を寄せた政宗に、慶次は悪い悪いと言うが 実際そのとおりになるのは目に見えている。
上杉とは互いに睨み合い、牽制をし続けてきたこともあり自然な流れとも言えた。
「兼続を見てやっててくれ。見てるだけでいい。俺は引き戻せても取り戻させるのは向いてない」
「馬鹿め、それこそ愚か者の言うことよ」
 誰もが終わりを感じていて、政宗も例外ではない。  そうして終わりを受け入れられない者たちが集まり、 討つことで終焉を見せつける戦が始まろうとしている。政宗が世の中を渡り歩き、 狡猾ともいえるやり方を身につけたのはひとえに民のためでもある。 どう言われようとも、理想で易々と民を殺させるような道をとるわけにはいかない。
 だが、と思うこともある。諦めの悪い、ただひたすらに一直線な男はどうするのだろうかと。
 その晩政宗は文を使いに出した。返事が返ることはなかった。





私が捨てたのは信念であった、心とも言うべきものであった。
知音の友よ、私達が誓い合った言葉を保てなかった私を責めているだろう。
血濡れで戦う幸村に三成、お前の姿が重なったのは、幸村が私達の信念を魂で表したからだろうな。
せめて私の手で終わらせたかった。それも叶わぬと知った今、
どうか幸村の導きをお前に願いたいと思う。






後味悪く終了(ほんとにな)
月=理想、義 月の使者=三成 おじいさん・おばあさん…は上杉主従でいいんじゃry
ええとすみません