当事者のメメントモリ


「まご、まご」

 かつて俺の後をついて、疑問符を飛ばしてたお嬢ちゃんは、 人の命を背負うほどのいい女になっていた。野郎ばっかりの戦場の後だと、 俺でもグッとくるくらいのいい女だ。俺のまわりの『ダチ』はお人好しばっかりで 困っちまう。
 先行して、宣言どおり道を切り開いた嬢ちゃんの背が、やけにもう一人のダチと被る。 皆が笑ってくらせる世をつくるって、出世しまくって、沢山の重みを背負って、 その分沢山のものを失った男の背とだ。どうせなら、もっと可愛くてしっぽりできそうな お嬢さんの背と被って欲しいものだ。俺は幼女趣味もそっちの気もさらさらない。
あいつは背が低いのを気にしてか、派手な金の兜を被っていた。
「孫、あのおとこ、」
 嬢ちゃんの視線は撤退していった集団の後を追っている。 薄暗いその方向に何が視えているのか、俺にはわからない。乱闘の後がそこここに 残る市街だが、ここは静かだ。いずれ家臣団やら、俺の仲間が追っかけて騒がしくなる だろうが、まだその気配はない。

「しそうがでておる」

 嬢ちゃんは心在らずなままつっ立って、俺は銃の先を肩に置いた。 どいつの事かなんて野暮はしない、考えない。 あいつの奥さんの顔が浮かんだので、そっちを考える。最後に会ったのはいつだったろうか。 ドタバタ夫婦喧嘩が見れなくなったのは、いつから。未亡人だぜ秀吉、いいのかよ。 問いかけても応えは返らない。そりゃそうだ。

「どうなるかわからないぜ?」
「そうじゃな。孫も似たようなものじゃったのう」
「行くのか?」
「うむ」

 俺のまわりの『ダチ』は強い奴ばかりだ。
後に『ダチみたいな奴』にその事を話したら、「当然じゃ馬鹿め!死想など龍の前には 吹き飛ぶわ!」とまあ、俺にはよくわからねえお言葉を頂いたんだが、そうだな。 そんな風が吹けばいい。そしたらあいつだって笑うだろう。お嬢ちゃんはあれは何じゃと 訊きまくる。俺はお嬢さん方と花を飛ばせるってわけだ。楽しそうだろ?





メメントモリ=死を想え。語感が好きです。メメントモリ。
死相と死想。これだけ見ると縁起が大変よろしくないですね…